「ドロシアは?」
「今夜は友達の家でポーカーの日だから、帰って来ないよ。さあどうぞ」
ドロシアの完璧に手入れされた庭の隅に小さな小屋があって、そこがデクスター氏の研究所になっていた。今まで、ドロシアに会いに来た時何度か目に入っていたけど、物置きなのかな、程度にしか思っていなかった。
中には机、パソコン、ベッドそれから辞書や本のびっしり詰まった本棚が部屋の壁をコの字にぐるっと囲んでいた。それから、何かの実験に使ったような模型や機具も。
「わあ……ねえ、あたしの想像通りじゃない?」
「うん、そうだね。僕が老人じゃなかったってこと意外は」
あたしは思わず笑った。
「あと、大きな実験は、大学のラボでやるんだ」
「へえ……」
だけど内心、もうデクスターどころじゃなくなっていて、ほとんど目に入っていなかった。
だって、この後一大イベントが迫っているんだから。
「まだ見たい?……」
「ううん、今日はもういい……」
「よかった」
アンディはあたしをそっと抱き締めると、またキスをした。
「アンディ、ぎゅうってして」
「うん」
アンディは力を込めて抱き締めてくれる。その力がすごく強くて、あたしは初めて、アンディは本当にあたしの事を好きなんだって実感した。あたし、本当に好きな人に愛されてるんだ、って思った。
こんなふうに確信できたのは、本当に生まれて初めてだった。
なにか、熱い気持ちが込み上げてきて、視界がぼんやりとする。
「ミカコ? 泣いてる?」
「うん、いいの。気にしないで」
「いや、気になるから。なんで?」
「笑うもん、絶対」
「言ってみないと分からないよ」
「アンディは、本当にあたしの事を好きになってくれたんだな、って、今思ったの……それで、嬉しくって」
「それで、泣いてるのか?」
「うん……なんか、感動したの」
笑われるって思った。だけど、アンディは笑わなかった。
「いや、そんな事言われたら、僕の方が泣きそうだよ」
そう言って微笑んだ。
「なあ? じゃあそろそろ、僕の部屋に、行く?」
「ここじゃないの?」
「違うよ。ここはデクスターの部屋だから。あそこで寝るのは締めきりで切羽詰まってる時だけ」
アンディはベッドを指差して言った。
「なあミカコ。ひとつ、聞いてもいい?」
ふいに、アンディが心配そうな顔をする。
「うん?」
「さっき……僕に対する気持ちは変わってない、って言ってたけど……それって。僕が思っている通
りで、あってるのか?……これからも友達で、とか、そういう事じゃないよな?」
その真剣な顔を見て、あたしは思った。
不安で、どきどきして、すごく好きだって思って、胸がいっぱいで張り裂けそうに切ないのは、もしかしたらあたしだけじゃないのかもしれないって。
いつも余裕でポーカーフェイスのアンディが、眉間にしわを寄せて苦しそうな顔をしてる。
ほんとに、ほんとうにアンディのことが愛しくて、好きでたまらない。
あたしはアンディを見上げて、しっかり目をみつめた。
「……アンディ。あのね。ちゃんと言ってなかったよね。あたし、アンディのこと、ほんとに好きだよ……ほんとは、あたしアンディのこと、友達だなんて思ったことなかった……いっつもドキドキしてた。だから、今すごく嬉しい……あたしたち、両思いだったんだよね?」
「ああ……うん。そうみたいだな」
アンディは表情を和らげて言った。
「やったあ」
あたしはそう言ってアンディをぎゅうっと力いっぱい抱き締めた。それに、顔が赤くなってそうでごまかしたかったから、アンディの胸に顔を押し付けて、心臓の音を聞いていた。
「……確かに、感動的だな……」
アンディが小さな声で呟いた。
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