どのくらいベンチに座っていたのか。アンディが去っていつの間にか太陽は雲に飲み込まれていた。淡い水色だったはずの空はまるでコンクリートで、体は冷えきっていた。
どのくらいの時間そうしていたのかわからない。ずっと、考えていた。
アンディが言った言葉の意味を。
なんにも分からなかった。ほんの一瞬、気持ちが通じ合ったような気がした。
だけどそれはとんでもない独りよがりだった。
部屋に戻ってベッドに座り込む。手も足も氷みたいに冷たくなっていた。
キスしたのに取り消しなんて、そんなのできない。 それならいっそのこと、なんにも起こらない方がよかった。
寒くてたまらなくて、布団に潜り込んだ。それでも震えが止まらない。
今のこの苦しさをうち消せるのは、アンディのハグと、眠ることだけ。
眠ることなんてなんの解決にもならないけど、この寒さと目眩と息苦しさから少しの間だけは解放される。
毛布と布団を被って、それでもまだ寒さに震えながら、目を閉じた。
目が覚めると、部屋は真っ暗闇だった。キッチンからいい匂いがして、チコとももちゃんが笑う声が聞こえて来る。なんだかほっとした。すごく悪い夢を見ていたような気がしたから。パーカーは汗でぐっしょりだった。
キッチンに行こうと体を起こすと、目が回って座っていられないくらいだった。
変だ。咽も痛い……ひたひたと現実が追い付いて来る。
そうだ、夢じゃなかったんだ。
きっとあそこに何時間もいたせいで、きっと風邪をひいたんだ。
寝転んで天井を見つめながら唇に触ってみた。目を閉じると、ついさっきのことみたいにアンディの唇が蘇って来る。
耳の穴になま暖かい涙が流れ込んで来る。
それからしばらく泣いた後、もうひとりで考えるのはたくさんだと思った。誰かに答えを出して欲しかった。
あたしはなんとかベッドから出ると、よろよろと明るい方へ歩いて行った。汗が冷えてまた寒気がしてくる。
時計を見ると8時半だった。仕事に行かなくちゃ。
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