ロックンロールとエトセトラ  
 

10月 ブルーライト
Blue Light/ Bloc Party

 
   
  #7 告白 ミカコ
 

 凍えるような寒さや全身を襲うじくじくとした痛みが引くと、今度は汗がどっと出て体が溶けて流れて行くみたいだった。重くてだるくて、言う事を聞かない。
 ベッドに張り付いて、マットレスに吸い込まれて行くような感じがする。体がスライムになったみたい。本当にあたしは軟体動物なんだって考えてみると、気持ちよかった。
 なにか考えようとしても、頭をぐるぐる回るだけで、結局途中で忘れてしまう。
 何度か目を開けたけど、真っ暗闇で時間も分からなかった。すぐに瞼が重くなって目を閉じる。
 よけいなことを考えなくていいのは、すごく楽だった。

 現実と夢の間でうつらうつらとしていると、おでこにひんやり冷たいものがさわった。チコかももちゃんがタオルを取り替えてくれたんだろう。それからひんやりした手があたしの頬を撫でた。うっすらと目を開く。
「ごめん、起こした」
 そこに見えたのはアンディだった。
「具合はどう?」
 アンディがあたしのベッドに腰掛けて、傍であたしを見下ろしていた。
「戻って来たの?」
 喉がかすれてうまく喋れなかった。
「ん?」
 アンディがあたしに顔を近づける。
「戻って来たの? 」
「うん。戻って来たよ」
「よかった」
 アンディが微笑んで、あたしは嬉しくなった。アンディは遠くに行ってしまった訳じゃなかった。それだけで嬉しかった。
「アンディ……なんでこの前、謝ったの?」
 アンディはそれを聞いて、首を傾げた。
 キスのことなんて、もう忘れちゃった?
「どうして、キスしたの?」
 頭がぼーっとしていてどきどきさえしなかった。ただ頭に浮かんだことを順番に口にする。それは、なんだかアンディを困らせているみたいだった。
「それは。あの時……どうしてもそうしたかったんだ。いや、ずっと前から、そうしたかった」
 アンディはあたしの目をしっかり見つめてそう言った。どういう意味なのか分かるのに、少し時間がかかった。
「じゃあ、どうして謝ったりしたの? 悲しかった」
「いや、だって。悲しい? ミカコが?」
 アンディは眉間にシワを寄せる。
 ももちゃんが言ってたみたいに、ほんとにあたしの気持ち知らなかったの?  みんなに、ドロシアにさえばれていたんだから、きっと隠しきれていないだろうって思っていた。
だけどアンディは今分かったみたいに目を見開いていた。
「……じゃあ」
 アンディは小さく呟いた。
「絶対にあたしの方が先に、ずっと前からそうしたいと思ってたよ」
 あたしはなんだか偉そうにそう言った。熱のおかげであたしは気が大きくなっていて、いつも言えないようなことまで簡単に口にすることが出来た。
 それに、ずっと言いたかったことが言えて嬉しかった。
 胸の仕えが取れてすっきりした。
 また眠気が押し寄せて来る……すごく心地のいい眠気……。
「ミカコ。話があるんだ」
「うん」
 頷きながら、あたしはうっすら視界が狭くなって行くのを感じた。

 アンディの話を聞きたいのに、目を開けていられなかった。

 
 

#6#8

 
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