「ねえモー。なんっで世の中にはろくな男がいないんだと思う?」
エレンが勢い良く煙草のけむりをぶはっと吐いて言う。エレンが最近知人に紹介されて2回デートした人はアルコール中毒だった。
それにちょうど向かいにある雑貨屋によく出入りしている業者の人を、エレンは前から気に入っていた。それなのに先週末、その人が男の子と腕を組んで、ゲイバーから出てくる所を偶然目撃してしまった。
「ろくな男。いないのかなあ。そんなことないけどな」
あたしはジェイミーを思い浮かべながら言った。
「あんたはいいよ、ジェイミー王子がいるんだからさ。それにミーにはあのデクスター。はっきり言って2人ともかなり特別
だから」
そりゃ、そうだよね。ジェイミーはロックスター。アンディは世界で何万部も売れている小説を書いている作家。
「それについにチーにまで。はあっ。あたしチーはちょっとあたしの仲間かと思ってたんだよ」
エレンはいらいらとタバコを灰皿に押し付けて言う。
「でも、チコはまだロッシとつき合ってる訳じゃないよ? あたしとミミコにも、よく分からないの」
「でも、かいがいしく世話してんでしょ? それにロッシは。そういやロッシってどんな子なの? かわいい?」
エレンはまだスナッグに行ったことがない。
だってエレンはカムデンに住むおしゃれさんだから、あんなさえない街に、わざわざ遊びに来たりしない。らしい。本人がそう言っていた。
「かわいい? んー。長髪のイーサン・ホークって感じかな」
最近ロッシは髪の毛を切りに行くヒマもなくって、顎あたりまで濃いブラウンのくせ毛が延びた。その上チコが食べさせに行く一日一食の御飯しかまともなもとを食べていないから、ぽよんと出ていたビール腹がへこんでちょっと男前度が上がった。
さらに、チコが写真のことを打ち明けてくれた。
だからミルレインボウの中でも、ロッシの株は急上昇している。
「なんなのそれ! そんなかわいいなんて言ってなかったじゃない!」
「ああ。うん」
あたしはエレンの勢いに押されぎみで頷いた。
「でも、もうチーがいるし。それにあたしには若すぎるわ。はあー。どっかにいない訳? 30代の独身のまともな男はッ?」
あたしはしばらく考えてみた。だけど、あたしたちの回りには、20代の男の人か、既婚者か、あとはクイーンズストリートのおじいちゃんたちしかいない。
「んー……あッ」
あたしはひとり忘れている事に気付いた。
いたっ。ひとり。まともな30代の独身男が。
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