ロックンロールとエトセトラ  
 

11月 オールオーバーミー
All Over Me/ Graham Coxon

 
   
 #3 ブラインドデート モモカ
 

「で? どれ? そのベンってのは?」
 エレンはバタフライで何度もメイクのチェックをして、綺麗に跳ね上げたアイラインをもう一度引き直すとすぐに、彼女曰くさえない街、ハマースミスにやって来た。
 あたしが思い付いた男の人は、スナッグのオーナーベンひとりだけだった。
「ほら、カウンターの中にいるでしょ?」
 あたしはちょっと自慢げに言った。ベンは見た目も悪くないし、アル中でもないし、結婚もしていない。
「イッ!」
 なのに、エレンはベンを見た途端変な声を出した。
「どうしたの?」
「モー、あんたが言ってたベンって、ベン・ホールデンのことなのッ?」
 エレンははっきりとベンのフルネームを言った。それにどう見ても怒っている。
「エッ? 知り合いなのッ?」
 エレンは長い長い溜息を漏らした。

「……知り合いどころか。従兄弟よ、イトコ!」
「え、イトコ? じゃ、ベンとエレンは血が繋がってるってこと?」
「そ、あいつはあたしの母の姉、ジェニー叔母さんの息子よ。しばらく会ってなかったけど。そういやどこかに店を出したって、母さんが言ってた」
「うそ……すごい偶然だよ、ね。なんか、ごめん……でも、イトコなら別に結婚だって、」
 途中で鋭い視線を浴びせられて、それ以上言うのをやめた。
「もういいわ。ビール3杯で許したげる」
「エッ? 3杯もッ?」
「文句あるッ?」
「いや、ない、ないよ」
 あたしは素直に従うことにした。
 久しぶりに再会したイトコ同志は話が弾んで楽しそうだったけれど、恋とはもちろん無縁だった。

 
 

#2#4

 
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