久しぶりのスナッグでのライブ。みんなクリスマスは家で過ごすことが多いから、少し前の今日クリスマスパーティーを兼ねたオールナイトイベントが行われることになった。
あたしたちの他にもたくさんのバンドが出るし、夜中からは何人ものDJが出演する。
ここ一週間降り続けた雪が積もっていて、あたしたちはほとんど泣きそうになりながら、2回に分けて機材をスナッグに運んだ。ジェイミーもアンディも今日は来てくれることになっている。
あたしはどうすればジェイミーがみんなにバレないか必死で考えて、めがねとか帽子とかいろいろ試してみたけど、結果
、どれもジェイミーはかっこよく着こなしてしまって、変装にはならなかったから諦めることにした。
もちろん彼女のひいき目なんかじゃない。ジェイミーは知り合う前からずっとかっこよかったしスターだった。
だけど初めてスナッグに来た時だって、気付いたのはあたしだけだったし、問題ないだろうっていうことになった。
それでもジェイミーは度の入っていないあたしの度の入っていない黒ぶちめがねを気に入って持って帰った。
スナッグには、あたしたちの大好きな人が全員集まっていた。
ジェイミー、アンディ、それにもちろんロッシ。エレンはまたはるばるこんな遠くまで来てくれたし、リチャード、ティムとメルのカップル、それから、ソックスのダニーにジェフリーチューブのオーナー、サイモン・ローランドまで来てくれた。レコ評のお礼を兼ねて招待状を送ってみたら、来るはずがないと思っていたのに、あたしたちの出番の10分前にはちゃんとフロアにいた。
リチャードは友達と来たのか、知らないおじさんと楽し気に話していた。 それから徐々に増えて今では総勢40人ほどになっためがねさんたち。前の方にいる人たちにはほとんど見覚えがあった。
それから他のバンドを見に来た人たち。フロアはたくさんの人で埋め尽くされていて、外とは全く違うむっとした熱気に包まれている。
ジェイミーは次のアルバム製作の為のリハーサルを終えて、ぎりぎり時間に間に合った。昨日持って帰っためがねを掛けていてあたしは思わず微笑んだ。
なにもかもが素敵だった。
あたしは薄いブルーのライトに包まれたステージの上から、信じられない気持ちで見ていた。全てをなくしたと思った5年前のあの夜、まさかこんなに素敵な未来が待っているなんて、想像すらできなかった。
右側にいるミミコを見る。ミミコもフロアを遠い目で見ていた。振り返るとチコが笑顔であたしを見ていた。
あたしがチコの方に歩いていくと、すぐにミミコも隣に立った。
「なんかあたし泣きそうなんだけど」
ミミコは濡れた黒目がちな目でそう言った。
「あはは、あたしも」
意外にもチコまでそう言った。
「なんか、幸せだよね」
あたしがそう言うとふたりは深々と頷いた。
その時チコの頭の上にあるライトが、2回瞬いた。
あたしたちが驚いて振り返ると、フロアの一番奥にある音響ブースで、デイヴィスの隣に立ったロッシが笑っていた。『待切れない』の合図だった。
スナッグでは最近ロッシが照明を担当してくれるようになった。
前もって完璧な打ち合わせがしてあるから、ティムに負けないような完璧なミルレインボウ好みのライトであたしたちを盛り上げてくれる。
もちろんロッシはいつも照明を担当している訳じゃない。ミルレインボウ専属で、その間カウンターで一人になったベンに後でたっぷりと嫌味を言われる事になる。だけどロッシはそんなことは全く気にしない。
ただチコの笑顔が見たくて、あたしたちの為になにか力になれることはないか、考えてくれた結果
だった。
「じゃ、いくよ」
あたしはしっかりと頷いて、少し汗ばんだ掌をキャミソールの裾で拭うと、ピックを持ち直した。
初めに鳴らすコードの弦を左の指で押さえて、合図を待つ。
「ワン、ツー!」
チコが笑顔でそう声を挙げた瞬間、あたしたちはまばゆい光に包まれた。
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