ロックンロールとエトセトラ  
 

12月 マイトビースターズ
might be stars/ WANNADIES

 
   
 #10 夢 ミカコ
 

 フロアでDJがロックを掛け始めた。
 いつもなら、すぐにフロアに飛び出すけど、今日はそうしなかった。
 あたしは、店の一番後ろにある、すこし高くなった音響ブースに入った。デイヴィスは今休憩に出ていて、いま回しているDJの友達が照明の機械を操作していた。軽く笑顔を交わすと、彼がいるのと反対側の隅に立って、フロアを見渡した。
 ここからなら小さな店内が全て見渡せる。さっきまでライブが行われていたステージに、ブースができて、今はそこにDJがいる。
 さっきフレデリックが話したことが、ぐるぐると頭を回っている。

 フェス、アルバム、デビュー……夢みたい。
 初めてあのステージに立った時を思い出していた。怖かった。
 なにも上手くいかないかもしれない、自分に力があるのか、本当はわからなかった。
  だけど、あたしには自分を信じることしか出来なかった。
  大丈夫。そうやっておまじないみたいに強く思うことでしか、強くなれなかった。いくら練習しても満足できなかった。
 大丈夫だよ、なんて人には簡単に言えるのに、本当はずっと自分が一番不安だったのかもしれない。
 なにもうまくいかなかったら?
 こんなに平凡なあたしに、なにができるっていうの?
 そういう不安にいつも胸を締め付けられていた。
 今その思いは小さくなってはいるものの、片隅で眠っているだけで、またひょっこりと顔を出すにきまってる。
 だけどもう絶対に、高校生の頃にももちゃんに憧れていた時のような、傍観者には戻りたくない。

「探したよ」
 耳元で声がして、後ろから温かいアンディの胸に包み込まれた。
「どうした? 元気ない?」
 アンディが心配そうに見下ろしていた。
「ううん。いろんなことがあったなあって、思い出してただけ……あ、さっきアンディに襲われたから元気がないんじゃないよ」
 あたしがそう言うとアンディは笑った。
 これから、何度つまづいて落ち込んだとしても。
 あたしはずっと信じてやっていくしかない。今までそうしてきたように。
 自分や、ミルレインボウや、そしてももちゃんとチコを。
「ミカコになら、できるよ」
 ふいにアンディが耳元で囁いた。

 できるよ。
 その言葉は血管の中を通って、ぐんぐんあたしの体中を巡っていく。アンディの言葉は、魔法だと思う。
「うん……そうだね、自分でも思うよ」
 突然、いつもみたいな根拠のない自信が湧いてくる。
 ……ううん、根拠ならちゃんとある。あたしには、ももちゃんとチコっていう最高の親友とメンバーがいる。それにあたしを応援してくれている、最高の彼氏だって。
  ふたりの演奏も歌も、それにももちゃんが作る曲もあたしが作る曲も、最高だもん。あたしのベースは最高、とは言い難いけど、前よりは確実によくなってるってみんな言ってくれるし、自分でもそう思う。
 その時、聞き覚えのある曲のイントロが鳴った。
 ワナダイズの『might be stars』だ。
 勢いよくアンディを見上げると、彼は微笑んでいた。きっと、リクエストしてくれたんだ。この曲はミルレインボウのテーマソングだから。

 自分なんてこんなものだ、って。
 高校生の時、そう思っていたはずだった。冴えなくて平凡で退屈で。自分にはなんの力もないんだって、そう思っていた。
 そんなの全部、完全に間違ってた。
 今なら、信じられる。
 あたしたちだって、もしかしたらロックスターになっちゃうかもしれないじゃない?
 あたしにだって。
 できるよ。


ロックンロールとエトセトラ
12月 sound track
might be stars/wannadies


 (了)

 
 

#9エピローグ

 
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