ロックンロールとエトセトラ  
 

12月 マイトビースターズ
might be stars/ WANNADIES

 
   
 #4 マイトビー…… モモカ
 

「モーモごめん、壊しちゃったよ」
 飲み物を持ってフロアに戻ると、申し訳なさそうにジェイミーが謝った。その踏み付けられて片方のレンズが取れためがねを見た途端、ミミコとあたしはまた息ができない程の爆笑に飲み込まれてしまった。
「ごめんね、今度一緒に買いに行こう」
 ジェイミーもアンディも、あたしたちがどうしてそんなに笑うのか、不思議そうな顔をしていた。
 チコを呼ぼうとカウンターを振り返ると、ちょうどロッシがチコにキスをしているところだった。ミミコを見ると同じようにミミコもあたしを見ていて、ふたりでにやにやと笑った。
 少しして戻って来たチコに壊されためがねを見せると、思ったとおりチコは大爆笑した。それにつられてミミコもあたしもまた笑った。
「ちょっと、なに? なんだよお?」
 ジェイミーは少し不服そうにそう言った。
「チー、さっき喋ってた人知ってるの?」
 やっと笑いが治まった頃、エレンがチコの腕を掴んだ。
「え? ロッシ?」
「じゃなくって、あの、あそこでギネス飲んでる人」
 エレンはかなり切羽詰まった様子で怖いくらいだった。
「え? リチャード?」
 チコが一歩後ずさりしながら答えた。あたしたちも一体リチャードが何なのか気になってエレンを見つめていた。
「やっぱり、リチャードよね、リチャード・ベネットでしょ?」
「うん。なんでフルネームまで知ってんの? ノーワンエルスのオーナーだよ、あたしのボス」
「彼女はッ?」
 エレンは今にもチコを食べてしまいそうだ。
「い、いないよ、長くつき合った人もしばらくいないらしいし、彼女欲しがってる」
 チコがそう言うと、エレンはやっとチコを解放した。
「モーッ!、いるじゃないっ、あんなにすごい人がっ……どうしよう、夢みたい」
 突然見た事もないような乙女な顔をしたエレンが呟いた。あたしたちは顔を見合わせた。
 もう一度カウンターにもたれてステージを見ているリチャードをじっくり見てみたけど………やっぱりただのリチャードだった。
 そしてそこへ、いつのまにかあたしたちの輪から離れたエレンが近付いて行くのが見えた。
「リチャード・ベネット……」
 隣でジェイミーがぼそっと呟くのが聞こえた。
 何か思い付いたのかジェイミーに聞こうとした時、知らないおじさんに声を掛けられた。
「君たち、ミルレインボウだね」
 振り返ると、がっしりとしたマッチョな体型のおじさんが立っていた。歳はだいたい40代後半から50代前半っていう感じで、紺色のポロシャツにジーンズのラフな格好だったけど、きらきらと輝くロレックスが目の端に引っかかって来た。あたしはちょっとうさん臭いと思いながらその人を見ていた。
「はじめまして、僕は」
「フレディッ!」
 そのおじさんが自己紹介しかけた時、急にジェイミーが彼をハグした。
「え、あえ? ジェイミー何やってんだよこんなとこでッ!」
 ふたりは仲が良いらしく、笑顔で握手を交わした。
「なんだよ、ジェイミーにも会うしリチャードにも……あ、フレデリック・マーです」
 彼は口をぽかんと開けたまま状況を見守っていたあたしたちに気付いて、改めて自己紹介をした。

 
 

#3#5

 
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