まだあたしたちの興奮が治まらない所へ、ティムとメルが来た。
「やっぱいいよなー、てか今日特にすごくなかった?うん、俺ほんとやっぱファンだよ、あれ新曲? 俺初めて聞いた、ラストから2番目の」
「ああッ、早く次のデモ作ってよ。3曲とかじゃなくってね、フルアルバムの」
ティムとメルは一気にまくしたてた。この仲良しカップルは、すごくミルレインボウのことを気に入ってくれて、ニュートラル以外のライブハウスにも来てくれる。ニュートラルでの仕事が重なっていてティムが来れない日はメル1人でも来てくれる。
今日だってジェイミーとアンディから少し離れた所でふたりがぴょんぴょんと飛び跳ねているのが見えていた。
「ありがとう」
あたしたちはにんまりして顔を見合わせた。
それからあたしたちは今起きた出来事を話した。もしかしてもしかすると、メルの要望に添えるかもしれない。
アイ・スクリーム05の話をすると、ふたりはまるで自分たちのことのように興奮して、あたしたちを順々にハグした。
ジェイミーとふたりは初めてだったけど、紹介するタイミングを逃していた。だけどぐるっとハグして回った結果
、ふたりはジェイミーのこともハグした。
そこへミミコとアンディが戻って来た。ミミコがさっきとは違ったリラックスした表情をしていたから、やっぱりアンディに任せてよかったと思った。
ティムとメルはもちろんミミコとアンディのこともハグした。
「あ、ねえティム。リチャードって何者? なんかすごい人なの?」
チコがそう言うと、ティムはきょとんとしてチコを見返した。
「え?知らないんだ?」
知っていて当たり前、っていう口ぶりだった。あたしたちは首を振った。
「昔マクレガーズってバンドでギター弾いてたんだよ」
「マクレガーズッ!」
そこでジェイミーが突然大きな声を出した。
「……うそ、あの人がッ?」
そして、ジェイミーはさっきエレンがしていたみたいな目でリチャードをみつめ始めた。
エレンとリチャードはすこし離れた所で楽しそうに話している。
「マクレガーズ?」
そのバンド名を聞いても、まだぴんと来なくてあたしたちは顔を見合わせた。
「モーモ、知らないのっ?」
「いや、曲聞いたら絶対知ってるはずだよ……へえー彼があの?」
アンディまで感慨深げに頷いていた。
「トゥットゥットゥットゥトゥットゥットゥットゥギャザーアーアアー」
『アッ!』
ジェイミーがふいに歌いだして、あたしたち3人は思わず大声を出した。
「分かった?」
「うんうん、うそぉリチャードがッ?」
「そうだよ、知らなかったんだ?」
「ぜんっぜん知らなかった!」
「それに、あのバンドのソングライティングは全部リッチーだったんだよ」
ティムが付け加えた。
そうだ思い出した。たしかそんなバンドがいた。ものすごいヒット曲を3曲とアルバム2枚を残して解散してしまったバンドだ。
あたしが洋楽を好きになった時にはすでに解散していたけど、クラブイベントではいまだによくかかるし、その曲が大好きだった。
あたしたちは一気にリチャードを敬うような気持ちになって、神々しいリチャードをみつめていた。
「え……ちょ、ちょっとまって? じゃあさ……」
チコがなにか思い付いたように笑って言った。
「そ、それがリッチーが自分からは言わない理由だよ」
ティムは含み笑いで告げた。その時あたしも思い出した。マクレガーズのビジュアルを……あたしは写
真でしか見たことがなかったけれど……あのバンドにはギターは1人しかいなかった。
「じゃ、あのオカッパでシースルーのフリルシャツ着てたのがリチャードなのッ?」
ミカコがついに笑いを爆発させた。それにつられてあたしたちみんなが大笑いした。
あたしたちが大好きないい曲を書いていたリチャードだけど、あたしたちが思い出した過去のリチャードには、曲のことを吹き飛ばしてしまう程のインパクトがあった。
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