ロックンロールとエトセトラ  
 

12月 マイトビースターズ
might be stars/ WANNADIES

 
   
 #9 みんな モモカ
 

 薄暗がりのソファに移動して、今度は真剣に話し込んでいるエレンとリチャードは……かなりいい感じに見える。
 ライダースジャケットを来た男の子2人に声を掛けられて、笑顔で次のライブの予定を話しているチコ。そのチコを心配そうに振り返りながら、ビールをジョッキに注いでいるロッシ。
 楽しそうにアンディを見上げて話しているミミコ。それからミミコを見る時にしか絶対にしないような優しい笑顔で見下ろすアンディ。

 あたしはみんなを見回した。
 今夜はみんなが幸せそうだった。
 今夜だけじゃなくって、これからもずっとそうだといいと思う。

 そして、ふと思った。
 着実に、じわりじわりと夢へ前進しているんじゃないかって。
 もしかしたら、本当にワールドツアーだってできるかもしれないし、あたしたちの曲が日本のFM局のヘビーローテーションになるかもしれない。トップ・オブ・ザ・ポップスに出たりウェンブリーアリーナでライブをするかもしれない。
 だってそれは、あたしがニットキャプスのジェイミーとつき合うよりも、ミミコがA・J・デクスターとつき合うよりも、チコがあたしたちの目の前で彼氏とキスするよりも、もっとずっと現実的なんだから。

 ……これからなにが起きたって不思議じゃない。
 ずっと前はそんなふうに思えなかった。
「モーモ! 踊ろう!」
 誰がリクエストしたのか、マクレガーズの『トゥギャザー』が掛かり始めた。あたしはまた笑いながら、ジェイミーに手を引かれるまま、フロアに出た。
 リチャードを探して見てみたけど、この爆音が聞こえていないほどに、エレンと熱くみつめあっていた。

 もしもやっぱり現実は厳しくて、あたしたちがへこたれて潰れてしまうような時が来たとしても、これだけは言える。
 いつだって状況は刻々と変化していて、目をちゃんと開けて見ていればそこから抜けだせる方法はきっとみつけられるんだって……今までずっとそうしてきたように。
 ひとりじゃ無理かもしれないけど、あたしには助けてくれる人がいる。
 もう、ひとりぼっちじゃない。

 
 

#8#10

 
  もくじに戻るノベルスに戻るトップに戻る