ロックンロールとエトセトラ  
  第1章 オトメとエトセトラ-15  
   
   2001年10月 モモカ  
 

「ねえ、なんか足りないよね、あたしたち」
 昨日のライブで撮ってもらったビデオを見ながらの反省会。
「うん……なんだろう。でも、悪くはないよ?うまくいったもん、昨日」
 ミミコはチョコレートの包み紙で鶴を折りながら言う。
 確かにそう。悪くはない。失敗もしなかったし、ギターも喉も調子はいい方だった。
 でも、なにかが足りないよな気がした。
 あたしたちは、いろんな色の銀紙で包まれたチョコレートを頬張りながら、無言でビデオを見続けた。
 ビデオはその日のトリのバンド、筋肉戦車を映し出す。筋肉戦車は3ピースのパンクバンドで、ギターとベースを掻き鳴らすというより掻きむしりながら、ステージを転げ回っている。転げ回るように、じゃなくて本当にそうしていた。
 はっきりいって演奏はめちゃくちゃ。歪んだ轟音にボーカルは叫び捲くる。それなのに、あたしたちもお客さんも筋肉戦車が大好きで、演奏がめちゃくちゃでもネーミングセンスが最悪でもなんでも、そのステージは最高だった。

「ももちゃん、わかったよ。あたしたちに足りないのはこれだよ勢い。多分あたしたち、まだロックし足りてないんだよっ」
 ミミコは鼻息荒く熱弁を奮った。
 ロックし足りる。
 そんな言葉があるのかは別として、あたしは深く同意した。そうだ、そうだよ。あたしたちはまだまだロックし足りないんだ。
 じゃあもっとロックしよう。
 ……と思っても、どうしていいのかわからなかった。だいたいミミコもあたしも踊れる曲が大好きなくせに、作る曲は踊れそうにない曲ばかりだった。一番明るい曲でも、せいぜい揺れる程度だ。
「ねえ、なんであたしたちの曲って、こんなに暗いのかなあ?」
 ミミコは包み紙で作ったいろとりどりの鶴の群を弄びながら言う。
「決まってるじゃない、それはあたしたちがダークな人間だからよ」
 あたしがそう言うと、ミミコの鼻息で鶴が2羽はばたいた。あたしも一緒に笑った。
 あながち間違ってはいないけど、実際そこまで暗い訳でもない。ふたりだけが分かる冗談だった。


「じゃあ、明るい曲、作ってみる?」
 そうと決めると、あたしたちはテーブルを移動して、急いでリズムマシンや録音機材のMTRを広げた。
 夢中で、あっというまに曲は出来上がった。
 すぐにリズムを打ち込んで、出来上がったリズムと、適当につけたギターとベースをカセットに録音すると、そのカラオケにのせてミミコのコーラスと共に、いつもよりも元気な高い声で歌を入れた。
 あたしたちは顔を見合わせてにんまりした。
「できたねっ、できたねっ、早く聞こう」
 ミミコがあたしを急かす。
 あたしは再生ボタンを押した。
 コンポのスピーカーからあたしたちの新曲が流れ始める。
 この瞬間には、ライブとはまた違う興奮がある。
 ……だけど、その曲を聞いてあたしたちはショックを受けた。
「これ、明るいの意味はきちがえてるってかんじ、しない?」
 あたしも同感だった。確かに新鮮だけど、これをライブで聞いてもらいたいかっていうと、あんまり聞いてほしくないような気がする。それに誰も聞きたくないかもしれない。
 明るいというよりも、うるさくて速い、ちょっと頭のおかしそうな曲だった。  あたしたちは、肩を落として機材を片付けると、またテーブルを戻してテレビを見始めた。


「ねえ?生ドラムって、いいよね」
 ミミコがリーフのクリップを見ながら思いついたように言った。あたしは前のバンドで生のドラムと演奏していたけど、ミミコはまだ経験がない。
 ミミコとバンドを始めた時に、考えなかった訳じゃない。でも、すぐに見つけるには、セイくん力を借りなきゃならなかった。もしくはそれ繋がりの知り合い。
 あたしの周りにいるバンド関連の人間で、セイ君とあたしのことを知らない人なんていなかった。
 ミミコと作るバンドは、それとは関係ない場所でいちから作りたかった。
 それにもうあたしたちは、未来への計画ではちきれそうで待っていられなかった。だから機材を購入して、すぐに始めることに決めた。
 ふたりともドラムの知識がないし、かといってテクノも性に合わないから、デジロックに落ち着くことも出来なかった。
 結果、あたしたちは心の赴くままリズムを打ち込むことにした。
 それで今まで楽しかったし、新しくメンバーを増やすなんて、考えたこともなかった。


 だけどバンドを初めて2年半。
 あたしたちは変化の時期に入っているのかもしれない。

 
 

1416

 
  もくじに戻るノベルスに戻るトップに戻る