数カ月ぶりだったけど、2人のことはすぐにわかった。
2人ともニットキャップをかぶっていて、ギターの子は全身黒で、ベースの子は赤と紫の目に痛いコーディネートだった。前のライブの時とはかなりイメージが違った。
シェイカーズがインディーズデビューを果たしてライブハウスの拠点を変えたので、ミルレインボウとはあれっきりだった。
ふたりはにこにこしながら、あたしをステージに送り出してくれた。わざわざ見に来てくれたのも、声を掛けてくれたのもうれしかった。
そのおかげか、ライブでは本当に好調だった。
そしてその時は、思いもよらない形で、突然やってきた。
あたしが一番恐れていた瞬間。
「実は、発表があります。この度シェイカーズはメジャーデビューすることになりました、アルバム発売は春頃になると思います」
アラシ君の発表を受けて、会場は大騒ぎになった。メンバーもみんなにこにこしていた……あたしを除いて。
あたしは、それに関して何も知らなかった。誰もあたしに教えてくれなかった……。
あたしには関係のない事だから。デビューの話は、あたし抜きで進んでいたんだ。あたしはタオルで汗を拭くふりをして、こらえきれなかった涙を拭いた。ステージ下に目を向けると、誰もが嬉しそうだった。
ライトが消えてメンバーが片付けを始めても、あたしは動けずにまだスティックを握り締めていた。
誰もあたしに声を掛けようとさえしなかった。
くやしかった。
あたしは本当にドラムが好きで。それは昔も今も変わらない。もちろん、やるからには誰にも負けたくない、ましてや男には絶対に負けない。
だからすごく練習もした。まめがいくつも潰れて練習中に血が飛び散っても、つらくなんかなかった。
でもそれは嘘だった。そう言って自分を納得させようとしていた。
だけど本当はずっと前からすごくつらかったし、すごく怒っていた。
こんなに練習してるのに。それでもいくら練習しても満足行かなかった。まだまだ足りないような気がしていた。
あたしはいつあの言葉を投げ付けられるのか、いつも怯えていた。
『なんかドラムス、パワー不足だよな』
ギターポップの頃は楽しかった。アラシ君があたしを入れたのは、ポップなビジュアル面
に女の子が欲しかっただけのことだった。それでも、シェイカーズに入れたことが嬉しかった。
メロコアの時は、あんまり面白くなかったけど、つらくはなかった。
だけど今は、つらい。歪んだギターに歪んだ低音のベースが叫びまくる。さらにヴォーカルも咽を潰した低い声で叫ぶ。それに負けちゃいけない。あたしは歯を食いしばって、必死にスティックを振り上げ続ける。
あたしは、男になりたいわけでも、女であることが嫌なわけでもない。
本当は、男なんて信用できない生き物だし大嫌いだった。
それなのに、気がつくと周りにいるのはいつも男だった。
男が嫌いだけど、女も好きじゃなかった。
浮気してるくせに家でいばっている父も嫌いだったし、そのことを知っているくせに、捨てられないよう、必死に作り笑いを浮かべている母も嫌いだった。
誰の事も好きじゃないのに、独りきりじゃいられない自分のことは、もっと嫌いだった。
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