ロックンロールとエトセトラ  
  第1章 オトメとエトセトラ-5  
   
    1998年 9月 イチコ   
 

 楽しい日々があっというまに1年近く過ぎた。
 高校3年生になって、進路をどうしようか決めかねていた。
 あたしとムネ以外はみんなもう高校を卒業していて、アラシ君はアルバイト、ボーカルの斉藤君ともう一人のギター、井上君は大学生だった。
 アラシ君は「大学なんて行く必要無い、俺と本気でやってくつもりがあるなら、学校行ってる時間に練習しろ」と言い、あとの二人は「アラシが何と言おうと、大学には行くべきだ」と言った。
 あたしは、実際大学に行って勉強したいこともなかったし、アラシ君について行くのもいいかもしれないと思っていた。
 アラシ君にはシェイカーズについての綿密な将来設計があって、あたしたちはそれを嫌という程しつこく聞かされていた。それは夢というよりももっと現実的で、あたしはメジャーデビューだって本当にできると思っていた。
 なによりもギターポップバンド、ザ・シェイカーズはかなりいい線行っていたし、アラシ君の書く曲が大好きだった。ムネのギターも井上君のギターも斉藤君の声も、全部かっこよかったし、アラシ君のベースなんて鳥肌モノだった。
 あたしはずっとこのバンドでやっていきたい。いつの間にかそんなふうに思っていた


 その頃、あたしは人にどんなバンドやってんの?って聞かれると、ウィーザーとかワナダイズとか、ファウンテインズオブウェインみたいな感じ、と答えていた。
 結局、ムネは大学に行くことにして、あたしは受験しないことに決めた 。
 でもそれを知った父に大反対された。
「今どき大学も出てなくてどうするんだ。それでなくてもおまえは取り柄も無いんだから、そんなおまえをどこの会社が入れてくれるんだ?」
 と父は怒鳴り散らした。
『就職なんかするつもりないよ、あたしはロックスターになるんだから。取り柄ならちゃんとある。ドラムだよ』
 なんて言えずに、あたしは唇を噛み締めていた。
 どうして父の前に出ると、何も言えなくなってしまうんだろう。
 なんだその目は、なんて言われて殴られた。殴られるまでのその一瞬に、ドラマかよって心の中で呟いた。
 そしたらよろけてテーブルに突っ込んた。まゆげの上がサックリ切れて、血がだらだら流れた。5針も縫うことになって、病院の先生にすごくかわいそうがられた。きっと跡が残るだろうって。ただ運が悪かっただけだ。
 あたしは涙を溜めて青ざめている母の顔を見ると、大丈夫平気だよって答えた。

 結局あたしは渋々、滑り込みで短大に願書を出した。学費は父が出してくれる訳だし、授業は適当に単位 さえ取ってればいいと思った。
『女のくせに大学になんて行ってどうする?』
 そう言われなかっただけかなりマシだった。そう思えばいい。

 
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