ライブはまだまだ続いている。
ロッシもベンもビールを注いだりカクテルを作ったりするのに大忙しで、話す暇もない。
近くのテーブルでビールを飲んでいると、いつもの5倍くらいの人たちが声をかけてくれた。
あたしたちはモモの分もカバーするように、愛想よくがんばった。
「ボーカルのビューティフルガールは? 彼女の声は最高だよ」
そんなふうに言う人までいるのに、肝心の本人がどこに行ったのか分からない。
「チコ、ももちゃん探しに行った方がいいんじゃないかな」
ミミコは心配そうに言う。もう2時になろうとしている。辺りを独りでぶらぶらするような時間じゃない。
「なんか、変だったよね」
終わった瞬間、慌てて片付けをして、その後ぼんやりしていた。
今日のライブは大成功だった。最後なんてモモは泣いてるんじゃないかと思った。そのくらいに心のこもった歌声に、ファンが出来たのも頷ける。
「ねえロッシ、モモ見なかった?」
ちょうどお客さんが切れた隙に、ロッシに声をかけた。
「ああ。見たぞさっき。入口の方歩いてった」
「ひとりで?」
「いや、男の後ろ歩いてた。知り合いじゃねえのか?」
「男?」
あたしは一生懸命誰のことか考えようとしたけど、無理だった。
まさか……
あたしは、もう誰にも声をかけられそうにないのを確認して、ミミコを引っ張ってバックステージに入った。
分厚い扉のおかげで外の爆音が遮断されてゆっくり話が出来る。
「すごいよね、デモテ25本も売れたよ、こんなの初めてだよね」
「ほんとだよっ少なくとも25人はミルレインボウをもう一回聞こうと思ったってことだよね。すごいよー。早くももちゃんにも教えてあげたい」
ミミコは何度も頷きながらそう言った。
「うん。どこ行ったんだろ?」
「あ、そう、それだったっ。今ロッシに聞いたんだ、モモは男の人と一緒に出てったって。ロッシが見たんだって」
「男の人? 誰?」
ミミコは体を乗り出す。
「それが遠くてよく見えなかったって。ね、誰か知り合い来るとか、モモ言ってた?」
「ううん」
ミミコは首を振る。
「じゃあ誰? ねえ、さっきなんか変だったよね。モモ。そわそわしてたし、」
「チコ、あたしと同じこと考えてる? ももちゃん、ジェイミーがいたって言ったよね……」
「うん……言った」
あたしはただの勘違いだと決めつけてしまったけど、ほんとだったとか?
「まさか、ねえー」
あたしたちは顔を見合わせて笑った。
ちょうどその時扉が開いて、半開きの扉からモモが顔を出した。一緒に外の音もなだれ込んで来る。
「ももちゃんっ、心配してたんだよ? どこ行ってたの?」
ミミコは勢いよく言う。
「ごめんね、それがね、」
モモは頬をピンク色にして、目は潤んできらきらしていた。
なにかいいことがあったのはすぐ分かった。
「どうも」
そのモモのいるドアの上の方に、顔が出て来た。
ミミコもあたしもそのまま凍り付いてしまった……
「あ、大丈夫?」
固まったあたしたちにモモは笑いかける。
「ジェイミーッ!」
やっと解凍されたミミコが大声をあげた。
モモもジェイミーも、にこにこしながら狭いバックステージに入って来る。
3畳くらいしかない小部屋に、予備のアンプが3つとバスドラがひとつ、あといろいろな機材が棚に積んであって、何本ものシールドが床でとぐろを巻いている。
3人でも狭く感じるところに大きなジェイミーが来て、あたしたちはあたふたしながら、なんとか二人の為に折りたたみスツールをあと2つ並べた。
ミミコもあたしも息が上がるほど興奮していたけど、モモとジェイミーはもうすっかり打ち解けているみたいだった。
ミミコとあたしはそれぞれに自己紹介をして、ジェイミーと握手をした。
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