ロックンロールとエトセトラ  
 

7月 リターン
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 #5 雷鳴 モモカ
 

 ジェイミーはあたしの事も信用していないんだろうか?
 それに、どうしてそんなに悲しいことばっかり言うんだろう?
 あたしは、今すぐジェイミーの言葉を遮って、ジェイミーのすごい所とか、素敵な所とか長所を、あたしが好きな所を全部言いたかった。
 それなのに、酔っている上に混乱して、言いたいことがすぐに見つからなかった。
 それに、彼女だなんて嘘をついた事実があるし。
 あたしを信じてなんて言える立場はじゃない。
「目が覚めた時……モーモが見えて。本当に女神かと思った。それか天使。天国かと思った」

 あたしの中で小さく警報が鳴った。

「本当は、目が覚めなければよかった、って思ったんだよね……だけど、」

 カミナリが落ちた。そのくらいの衝撃だった。
 ジェイミーの穏やかな声とは裏腹に、あたしの中の警報はどんどんボリュームを上げる。
 ジェイミーの声はもう聞こえなかった。
 頭の中で警報が耳をつんざきそうに激しく鳴っている。
 息が浅くしか吸えなくなって、掌には嫌な汗を掻いている。
 この人に近づいちゃいけない。だめ、この人はだめ。
 あたしは、死にたがりとだけは、絶対に関わりたくないのに。
 なのに、どうして?  どうしてジェイミーがそんなこと言うの?
 頭の中を勝手な想像や嫌な憶測がすごい速さで飛び交う。

 もしも、ロックスターのジェイミーが自殺してしまったら?
 そしたらきっと彼の何万ものファンはものすごくショックを受けて悲しむだろう。その中には、ジェイミーと同じ場所に向かう人もいるかもしれない。お兄ちゃんの後輩やお兄ちゃんみたいに。
  それ以上に、今あたしの目の前にいるあたしの好きになったジェイミーが消えてしまったら?
 その事を頭に浮かべた瞬間、あたしは本当に耐えられなくなった。勝手に涙が溢れて来る。
 急に寒くなって、肩がずっしりと重くなった。
「え、モーモ、なんで泣いてるの?」
 様子のおかしなあたしに気付いたジェイミーはあたしに触れようとしたけど、あたしは体をひねってその手をよけた。ジェイミーはさらに訳のわからなそうな顔をする。
「じゃあッ、あたしが通りかからない方がよかったんだね。そしたら大ニュースになって、たくさんの人が、悲しむんだよ。たくさんの人を傷つけて、自分だけ眠りたいなんて、そんなのずるいよッ」
 あたしは固まったままのジェイミーを残して立ち上がった。
「あたしは死にたがりとだけは友達にならないッ」
 そう言ってジェイミーに背を向けた。
 いつのまにかフラットにはまた明かりが灯っていた。
 ドアをあけて中に入ろうとした時、ジェイミーが我に帰って立ち上がったのを感じた。
「モーモッ? 待って、ちゃんと話がしたい、まだ途中なんだよっ」
 あたしは無視して中にはいると、人を掻き分けて奥へ進んだ。
 足下がおぼつかなくて一歩一歩がぐらつく。
 歩く程に気分が悪くなる。ジェイミーが呼ぶ声が聞こえた気がしたけど、振り向かなかった。
 そのまま人ゴミの中をずんずん進んで行った。
 ジェイミーに対する怒りで、とにかくもうなにも見えなかった。

 
 

#4#6

 
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