モモとジェイミーが最後に会った日から2週間が過ぎた。
ミミコとあたしはモモを壊れ物のように大切に扱っていた。いくらチョコレートを山のように積み上げても、『セックス・アンド・ザ・シティ』のビデオを一緒に見ても、地下室に白熱灯や蛍光灯のライトを持ち込んで、いろんな色のカラーセロファンを貼っても、モモが元気に笑うことはなかった。
本人はなにもなかったように振る舞っているつもりらしいけど、ミミコにもあたしにも、全くそうは見えなかった。それどころか、無理して笑う姿がよけいに痛々しかった。
ジェイミーはもう連絡してこないはずだっていうモモの予想は見当違いだった。ジェイミーは1日に1度、必ず電話をして来る。
初めはミミコにとっても、あたしにとっても敵のような気がしていたから、ぶっきらぼうにモモは仕事だとかいないとか平気で言っていたけど、毎日ジェイミーのうちひしがれた声を聞いていて、だんだん情が移ってきてしまった。
もしかしたら、ジェイミーは本当にモモのことを好きなのかもしれない。
でももしそうだとしても、もうモモはジェイミーのことを好きじゃなくなったんだから、関係ないんだ。
そう思おうとしたけど、やっぱりなにか違うと思った。
モモはジェイミーのことを嫌いにはなれないんだ。だからずっとあんなに悲しそうな顔をしてるに決まってる。
きっとモモはまだすごくジェイミーの事が好きなんだ。
そんな結果が出ても、ジェイミーと1分以上話すことは、まして、モモの近況報告をするなんてことは、ものすごい裏切り行為みたいに感じてしまう。
だけど、このまま放っておいて、ジェイミーがそのうち諦めて去って行った時、ほんとうにモモは笑顔を取り戻せるんだろうか?
そんなことを考えていたら、ドアのベルがジジーッと鳴った。
ロッシだと思ってドアを開けると、そこにはジェイミーが立っていた。強ばった青白い顔で。
「あ、ジ、ジェイミー」
「ハイ……チー」
お互い緊張している上に、気まずかった。
あたしはこの2週間、彼にいっぱい電話で嘘を付いた。
「モーモは……いる?」
「あ、いや。仕事行ってる」
ジェイミーは子犬みたいな目であたしを見下ろしている。
「いや、本当に。今日は仕事だよ。電話では……嘘ついたけど」
「そう」
ジェイミーは悲しそうに笑う。
自分の罪悪感も手伝ってか、本当にかわいそうに見えて、あたしは全部洗いざらい話したくなった。けどそれはできなかった。ロッシの恋を応援するのとは訳が違う。
「僕……もう嫌われちゃったんだよね。分かってるんだけど。でも、どうしてももう一度話がしたいんだ。モーモは誤解してる。きっと、今話しても言い訳に聞こえるだろうけど……それでも、このまま諦めるなんて絶対に出来ないんだ」
ジェイミーは強い意志であたしの目を真直ぐに見据えてそう言った。
次はあたしが彼の意気込みに応える番だった。
でも、どうすればいいのか分からない。彼がいくら健康的に見えたって、心の中までは見えない。
ほんとうにモモが思った通りの死にたがりだったら?
そんな毒は絶対にモモに近付けられない。
「1度でいいから。会えないなら、せめて電話つないでくれないかな」
だけど。ジェイミーの必死な声に、あたしはついに頷いた。
モモが憧れて、部屋に切り抜きを貼っていたロックスターのジェイミーが、モモに会おうと必死になっている。
これって、すごいことなんじゃないだろうか。
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