ロックンロールとエトセトラ  
  プロローグ  
     
  2003年11月 ミカコ  
 

 ロンドンといえば、セックスピストルズにローリングストーンズ、フー、クラッシュ、ジャムにストーンローゼス、シャーラタンズにマニックストリートプリーチャーズにブラーにオアシス、ブルートーンズにリーフにクーラシェイカーにザ・ヴァーヴにトラヴィスにコールドプレイの街。
 今は過ぎ去りしブリットポップの街。
 挙げれば切りが無い程の大好きなバンドの街。
 そして映画、トレインスポッティングにベルベットゴールドマインにヒューマントラフィックの街。
 ロックで尖っていて。そして、あたしを導いてたくさんの世界を見せてくれた聖人のごときスター達が住む、まさしく聖地だ。
 ロンドンだけじゃない、マンチェスター、リバプール、ウェールズ。イギリス全土に何十人、それ以上の憧れの人が住んでいる。
 あのノーキングのイアンも、ザ・ニットキャップスのジェイミーだってこの街のどこかで、今息をしてる。
 今あたしはそこに立っていて、どこかでイアンが吐き出した空気を吸っている。そう思うだけでもう……胸がいっぱいになる。

「ミミコ、何さぼってんの?」
  3階の窓から顔を覗かせたももちゃんが、ハタキを振り回して叫ぶ。
「ごめんごめんっ、すぐ戻るよっ」
 あたしは笑顔で手を振り返した。
 あたしの担当は1階の掃除。だけどさっきから集中できなくって、手を休めては玄関の外に出てあたしたちのお城を見上げていた。ボロボロで、階段も少し抜け落ちていてカビ臭くても、それでもこれはやっぱりお城だよ。
 ついに……ついにやったんだね。
 たぶん、あたしはタイミングにも恵まれてラッキーだった。
 今ならそう言っても、ももちゃんは許してくれるんじゃないかと思う。
 あの夜から5年弱。今あたしたちは、夢の街ロンドンにやっと辿り着いた。
 何十回、きっと何百回繰り返し夢見た。
 ミルレインボウ。虹の、たった千分の一の小さなかけら。
 ちっぽけでも、その光はどこまででも届くはず。
 そう信じて今までやってきた。
 きっとイアンにも届く。

「ミミコー、まださぼってんの?1階終わったんなら手伝ってよ、バスルーム最悪なんだからっ!」
 2階担当のチコが顔を出した。
「やだよ、ジャンケン負けたでしょ」
 あたしは笑いながら忙しいふりをして、ドアの中へ戻った。

 
     
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