ロッシはドアノブに手をかけたままあたしをぼーっと見ている。まるで魂が抜けたみたいだ。
「ロッシ?」
「チー、今なんて?」
ロッシは小さな声で呟いた。告白の催促をするなんて。なんて奴だ。
「こっち来てよ。まだ、時間あるよね?」
「ああ。ああ」
ロッシはあたしを不審そうに見つめたままとぼとぼと歩いて、隣に腰かけた。
あたしの心臓はさっきみたいに飛び出しそうにはなっていなくて、あたしは意外に余裕だった。それに、幸せな気持ちでいっぱいだった。
それでもまだあたしの勘違いの可能性が消えた訳じゃないけど。 見上げたロッシの目が少し赤くて驚いた。
「ロッシ? 泣いてんの?」
あたしは不思議に思って聞いた。
「えっ? あ、いや、まさかっ、」
ロッシは慌てて目をそらした。
あたしはロッシのその顔をずっと見つめていた。
「なににやにやしてんだよ?」
ロッシがびくつきながら言う。
「ロッシ、あたし、好きだよ」
あたしは、もう一度はっきり言った。
「チー? 分かって言ってんのか? 俺が言ったのはそういうことじゃないぞ?」
ロッシは困ったように笑って言った。
あたしははっとした。やっぱり勘違いなんだ。血がさーっと引いて指先から冷たくなっていくのを感じた。
勘違いで浮かれていた自分が恥ずかしくて、ロッシのジーンズに目を落とした。
「俺が言ったのは、チーが言うみたいな友達として、とかじゃなくてよ、だから、俺はずっと前からチーのことをそんなふうに見てなくて……だから、分かるか? 俺が言ってんのは、俺はチーとキスとかそれ以上とか、そいうことがしてぇって事で、ああ俺こんな事言うつもりじゃなかった、何言ってんだ。だから……いやもう勘弁してくれよ」
そう言ってロッシは大きな手で顔を覆った。あたしは信じられずにそれを見ていた。
「じゃ、俺行く」
そう言ってロッシが立ち上がった。
「待って、」
咄嗟にあたしはその腕を強く掴んでいた。誤解を解かないと。
だってあたしはとんでもなく鈍感で、それにロッシも同じように鈍感だった。
「まだ話終ってないよ、座って、」
「いや、もういいって」
そう言ってロッシは一歩踏み出した。
「だから、好きだって言ってるじゃない」 あたしも立ち上がって、もう一度そう言った。
「へ?」
それでもロッシはまだ意味がわからなさそうにぼーっとあたしを見ていた。
急にイライラがこみ上げて来た。
「だからッ……なんかむかついて来た。なんでわかんない訳? あたし、こんなこと言ったことないんだから、なのに何回も同じ事言わせないでよ、ばかっ」
あたしはロッシの腕を掴んだままそう言った。
「だからねッ、」
もう一度さっきよりも強い口調で言いかけた時、ロッシは息を吹き返したようにあたしの腕を素早くほどいてあたしを強く抱き締めた。
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