「けど、」
ロッシはまだ納得行かない声を出そうとした。
そこを遮って、あたしはロッシにキスをした。さっきロッシがしたみたいなのじゃなく、本気の、恋人同士がするキスを。仕掛けたのはあたしだったけど、ロッシはためらいもなくそれに応えた。膝の力が抜けて立っているのがやっとで、胸がヅキヅキ痛んだ。
どのくらい時間が経ったのか、唇を離して見つめ合うと、息を止めていたわけじゃないのに、ふたりとも息があがっていた。
「びっくりした」
ロッシが左の眉毛をぴくっと動かして呟いた。そんなふうに言われたら、なんだか自分がとんでもないことをしでかしてしまったように思う。
「まいった」
ロッシはそう言うと、おぼつかない足取りでまたベンチに座った。
「ロッシ?」
不思議に思って隣に座ると、ロッシは床を見つめて険しい顔をしていた。
「どうしたの?」
そう言って膝に手を置くと、ロッシがびくっとした。
「ダメだって、今納めてんだからっ」
「へ?」
2秒、3秒、考えてすぐに分かった。
あたしは大爆笑していた。
「笑うか?」
「だって」
「はあ、よし。で、あ、そうだ、そんなんでごまかされねぇからな」
ロッシはまたふくれ面に戻ってしまった。
「ロッシ。たった1週間だよ? 大したことないって。確かに寂しいけど……ロッシ?」
ふと、ロッシが遠い目をしているのに気付いた。
「いや、今なんて?」
「1週間だけだし、」
「い、い?」
ロッシは目をしばたかせている。
「ロッシ大丈夫?」
「あ、ええっ? 1週間? たったの?」
ロッシが今まで聞いたことのないような高い声でそう言った。
「うん、そうだけど?」
なんだか、おかしな雲行きだ。
「じゃあ、もう会えないわけじゃ?」
ロッシはまだ信じられない様子で呟いた。
「そんな訳ないじゃ……ねえ? ロッシ、そんなでたらめ誰に聞いたの?」
「誰って。昨日ミーに」
次の瞬間、あたしたちは顔を合わせた。
「やられた」
「ロッシはまんまと、ミミコの策略にはまったんだ?」
「ああ、うん。そうみてぇだ」
ロッシはきょろきょろと目を泳がせて、あたしの視線を避けている。ばつが悪いんだろう。
「ミミコはずーっと前からロッシがあたしの事好きだって言い張ってたから。ロッシが自分の事好きだとは知らずに。なんとしてもあたしたちをくっつけたかったんだよ」
あたしは笑いながらそう言ったけど、なにか引っ掛かる物を感じていた。
もしかしたら、ロッシはただあたしがいなくなると思ったから、衝動的にあたしを好きなように錯覚したのかもしれない。
ただの友達だって、目の前から消えて一生会えなくなるかもしれないって聞かされれば、寂しい気持ちになるはずだ。
それにだいたい、いつからミミコじゃなくてあたしを好きになったんだろう?
ただミミコに彼氏が出来た時に、ふと思いついただけじゃないんだろうか?
ぽつりぽつりと出てきた疑問が、どんどん膨らんで、あっという間にロッシの気持ちが分からなくなる。
勢いよくお腹の中から吹き出してきた、どす黒い煙に包み込まれてしまった。
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