「チー、」
いつもみたいに、レコードの棚を整頓している時だった。
「ロッシ?」
ドアが開いて、冷たい風と一緒に入って来たのはロッシだった。
「どうしたの?」
あたしは不思議に思って訪ねた。ロッシが今スナッグと自分の家以外の場所にいるなんて、ありえないことだ。
「出来たんだ。ついにやった……」
ロッシはよれよれの体で、なんとか立っていた。
「出来たって……うそ、全部? 完成したってこと?」
あたしは信じられない気持ちで聞いた。
「ああ。終った」
ロッシは満面の笑みで頷いた。
「やった、やったね!」
「ああ、やったんだ。俺」
ロッシは自分が成し遂げたことをまだ信じられないようだった。
「ありがと、ほんと」
ロッシはそう言って2、3歩近寄ってくると、がばっとあたしをハグした。
「あたし大したことしてないよ」
「いや、そんなことねぇよ」
ロッシは耳元で言った。冬の匂いがするロッシのマウンテンパーカーは冷たかったけど、あたしの頬にかかる息は熱い。
その時背中で咳払いが聞こえて、あたしたちは勢いよく離れた。
「レジいーかな」
振り返るとにやにや笑うティムがいた。
「あ、うん、うん」
リチャードは店の反対側の端でめんどくさそうなお客さんに捕まっている。絶対に自分が一番ロックに詳しい、と誇示したい人だ。
あたしはカウンターに戻ろうとした。
「あとで、うち来てくれるか?」
ロッシがあたしの背中に呼び掛けた。
「うん行くよ」
あたしがそう答えると、ロッシはしっかりと頷いて、ドアから出て行った。
相変わらずティムは何か言いたげにあたしを見ている。
「12ポンドだよ……なに? にやにやして」
「いや? べーつに?」
ティムの考えている事はきっとミミコと同じ種類のことだろうけど。あたしはそれ以上なにも聞かなかった。
「ありがと」
ティムは袋を受け取ると、弛んだ顔のまま出て行った。
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