「昨日、楽しかったよなあ」
そう言うロッシに相槌を打つあたしの顔が、ちゃんと笑えていないっていうことは自分でもよく分かっている。
ロッシの顔を見ると一気に昨日のことが蘇ってきた。
楽しかった、あの瞬間までの最高の1日を思い出した……
あたしはなるべくロッシから離れて、もくもくとグラスや灰皿を片付けたりトイレ掃除を5回くらいして過ごした。
アンディのセラピーも、効果は数時間しか続かなかった。
金曜日は週一回のオールナイトイベントの日で、今日は朝までハウスのイベントだった。スタッフもいつものベンとロッシとあたしと音響スタッフのデイヴィス以外に、金曜日だけのサイモンとテッドが来る。彼らはセキュリティの役割も果
している。
出勤が10時でいいかわりに、休憩中も店から離れられない。それも、こんな小さなハコに、人が犇めいていた。このDJは人気があるらしい。
チカチカとライトに色どられる人達をみていたら、どうしてかまた落ち込んで来た。だけど、今度のは昨日みたいなはっきりしたものじゃない。
朝家に帰ると、ふたりとも仕事に行く準備をして起きていた。
「おつかれ。お茶飲む? パンでいい?」
ふたりはダイニングテーブルに座るあたしの前を行ったり来たりする。
「お湯溜めてるから、先入ってくれば?」
ももちゃんがそう言って、あたしはそうすることにした。頭からも肌からも服からも、タバコの匂いがする。
バスルームのドアを開くと、湯気と強い花の香りが一気に押し寄せてきて、予想していなかったあたしは咳込んだ。お湯につかると、立ち上る香りを今度はゆっくりと吸い込んだ。ラベンダーとイランイランの入った、ももちゃんと一緒に作ったバスオイル。沈んだ気分を浮き上がらせる作用がある。
だけどむせかえる程入れるのはチコに違いない。
それで気付いた。まだ朝の7時だから。12時出勤のふたりはいつもならまだ寝ているのに。あたしを早起きして待ってくれてたんだ。
わざわざ朝食を用意して、それをさとらせないよう、忙しそうなふりまでして。ほんとに、あたしはなんていい友達を持ったんだろう……口元が緩むと同時に、目の前が曇る。あたしはほんとに泣き虫だ。
「ありがと、ほんとに」
パジャマ変わりのTシャツとショートパンツに着替えて、ダイニングテーブルに戻ると、こんがり焼けたトーストと、山盛りのサラダに、ハイビスカスティーが並んでいた。朝陽のたっぷり注ぐダイニングで、陽を受けた綺麗なピンクがきらめいている。あたしは急におなかがペコペコなのに気付いて、サラダを口いっぱいに頬張った。
「あのね、昨日ね、」
背中を向けてコーヒーをいれているチコがびくっとしたのが分かった。
「いいよもうふたりとも、気にしてないふりしなくて」
どうしてかあたしはそう言いながら笑っていた。
「全部話すから、あきれないで聞いてよ?」
あたしはそう言って、ふたりの顔を見た。
そしたら、ふたりの方がもう泣きそうだった。
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