「じゃああれは?『マニアックスヒーロー』のソロ、どうやって弾いてるの?」
そう言うとジェイミーはあたしがいつも使っているギターとピックで、あたしが弾けたことのないメロディを生み出す。オレンジのアンプから出た歪んだ轟音は、地下室の中を反響してぐるぐる回る。
あたしは陶酔して、目を閉じると自分がどこにいるのか分からなくなりそうだった。
「こんな感じ、わかった?」
急に音が止んで、ジェイミーがこっちを見ていた。
「もう1回」
そう言うと、また空気がジェイミーの音でうめ尽くされる。
「どう?」
「もう1回」
あたしはそう言い続けて、同じフレーズをジェイミーに10回以上弾かせた。
「飽きないの?」
ジェイミーは笑う。飽きる? なんてとんでもない。
あのギグの日以来、ジェイミーと時々会うようになった。もちろん、恋愛の匂いなんてしないけど。
ジェイミーはギターの上手な近所のお兄さん、みたいに振る舞っていて、だからあたしもなるべくベンやロッシに対するみたいに普通
に振る舞っていた。だけど本当はいつも、今も胸がいっぱい。
だって、あのロックスター、あこがれの王子様ジェイミーと同じ空気を吸って、同じ時間を過ごしている。
どうしてジェイミーがあたしと会ってくれるのかなんて、分からない。
レイチェルは怒らないの?
ジェイミーはあたしといる時に彼女の話をしたりしないし、だからあたしもなるべく気にしないようにしていた。
自分の恋心を育ててしまわないように。
自分でもびっくりするけど、だんだんとロックスターのジェイミーと目の前にいるジェイミーが切り離されつつある。
そしてあたしは、この目の前にいるジェイミーに、どんどん惹かれている。
でも、だめだよ。このジェイミーがいくら普通でかっこよくて優しくても、本当はあたしとは違う世界の住人なんだから。
「なあ、今夜時間ある?」
「え? うん。明日も休みだし」
「そう、よかった」
そう言ってジェイミーはにっこり笑った。
胸がキュンってなる。
あたしは最近、さらに馬鹿みたいにギターばかり弾いている。ジェイミーに、あ、それかっこいいね、とかいい音出すね、とか言われたい為に。
そんなあたしを2人は冷やかしたけど、理由はどうであれ、ステップアップしてるから偉いねって褒めてくれた。そうするとまたやる気が湧いてきた。
あたしは初めてギターに触れた頃みたいに、一生懸命練習に励んでいた。
|