ロックンロールとエトセトラ  
 

7月 リターン
Return / OK GO

 
   
 #1 ヒーロー
 

「じゃああれは?『マニアックスヒーロー』のソロ、どうやって弾いてるの?」
 そう言うとジェイミーはあたしがいつも使っているギターとピックで、あたしが弾けたことのないメロディを生み出す。オレンジのアンプから出た歪んだ轟音は、地下室の中を反響してぐるぐる回る。
 あたしは陶酔して、目を閉じると自分がどこにいるのか分からなくなりそうだった。
「こんな感じ、わかった?」
 急に音が止んで、ジェイミーがこっちを見ていた。
「もう1回」
 そう言うと、また空気がジェイミーの音でうめ尽くされる。
「どう?」
「もう1回」
 あたしはそう言い続けて、同じフレーズをジェイミーに10回以上弾かせた。
「飽きないの?」
 ジェイミーは笑う。飽きる? なんてとんでもない。
 あのギグの日以来、ジェイミーと時々会うようになった。もちろん、恋愛の匂いなんてしないけど。

 ジェイミーはギターの上手な近所のお兄さん、みたいに振る舞っていて、だからあたしもなるべくベンやロッシに対するみたいに普通 に振る舞っていた。だけど本当はいつも、今も胸がいっぱい。
 だって、あのロックスター、あこがれの王子様ジェイミーと同じ空気を吸って、同じ時間を過ごしている。
 どうしてジェイミーがあたしと会ってくれるのかなんて、分からない。
 レイチェルは怒らないの?
 ジェイミーはあたしといる時に彼女の話をしたりしないし、だからあたしもなるべく気にしないようにしていた。
 自分の恋心を育ててしまわないように。
 自分でもびっくりするけど、だんだんとロックスターのジェイミーと目の前にいるジェイミーが切り離されつつある。
 そしてあたしは、この目の前にいるジェイミーに、どんどん惹かれている。
 でも、だめだよ。このジェイミーがいくら普通でかっこよくて優しくても、本当はあたしとは違う世界の住人なんだから。
「なあ、今夜時間ある?」
「え? うん。明日も休みだし」
「そう、よかった」
 そう言ってジェイミーはにっこり笑った。
 胸がキュンってなる。
 あたしは最近、さらに馬鹿みたいにギターばかり弾いている。ジェイミーに、あ、それかっこいいね、とかいい音出すね、とか言われたい為に。
 そんなあたしを2人は冷やかしたけど、理由はどうであれ、ステップアップしてるから偉いねって褒めてくれた。そうするとまたやる気が湧いてきた。
 あたしは初めてギターに触れた頃みたいに、一生懸命練習に励んでいた。

 
 

6月#8#2

 
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