「わ。かわいいっあの子達」
ミミコとモモはさっきから浮かれっぱなしで対バンするバンドを見ている。
確かに、ふたりが言うガールズバンド、ヴァイオレットはちょっと大きいけど、かわいかった。みんなあたしと同じくらいかそれ以上背があって、太めでかなり迫力がある。だけどさらさら金髪をなびかせて、まるで巨大なバービーちゃんだ。
けど、みんな似たようなメイクに服で、あたしには見分けがつかなかった。
それに、あたしの感心はふたりとは別の所に向いていた。
だって、今日はジャクソンブレイクと一緒だ。あれから何度もニュートラルでライブをしているけど、あれ以来一緒になる事はなかった。
「かわいいなあ、友達になりたいなあ、でも恐いなぁ」
床に座り込んでベースをチューニングをしていたミミコが見上げる。
「ね、チコ、ちょっと話し掛けに行かない?」
「やだよ、感じ悪いし」
これはほんとだった。さっきからジロジロこっちを見てはひそひそ話している。どう見てもミミコとモモがしているみたいな好意的なジロジロ、じゃない。
「まーたー、チコは女の子の集団見るとすぐ感じ悪いとか言うんだから」
ミミコは笑いながら言うけど、そんなんじゃない。
「よし、じゃあ話してこよっと」
ミミコは立ち上がるとヴァイオレットに向かって歩いて行った。丁度ステージで今日のトリ、ジャクソンブレイクのサウンドチェックが始まった。
楽器が思い思いに鳴らされ始めて、ミミコが何を話してるのか聞こえなかったけど、ああやって並ぶと、ミミコは彼女たちを小さく小さくして華奢にした感じだった。迫力系ではないけど全然負けていない。
今日のミミコは黒いミニのワンピースにブーツで、シックに決めている。髪の毛もぴったりなでつけて、ミミコいわくツィギー風らしい。
「あ、ミミコ話し掛けに行ったんだ?」
トイレから戻って来たモモが言う。
「うん、なんか頑張ってそうだよね」
ミミコのいつも以上に大きな手振りを見て思わずふたりで笑ってしまった。
「じゃあ3曲目」
ステージでジャクソンブレイクのボーカルがそう言うと、スティックが2回鳴って、ドラムとベースが速いリズムを刻み出した。
モモと目が合った。
「やっぱ、いいよねー」
ふたりの声が重なった。
次はヴァイオレットの番だった。彼女たちは正当派ガールズロックバンドだった。歌も上手で、演奏も卒なくこなしていた。だけど、あたしは特になにも感じなかった。
ヴァイオレットが片付けを始めて、交代にステージに上がる。
「おつかれ」
ちょうどヴァイオレットのドラムスの子が立ち上がった。あたしよりも大きい。そして、あたしを見下ろして、くすっと笑った。そしてツンとしたまま無言であたしの前を通
り抜けて行った。
あたしは一生懸命感じよくふるまったつもりだったけど、むこうは全く仲良くする気はないらしい。さすがに怒りが込み上げて来たけど、はっとした。あたしは両手にスネアと打楽器を抱えて、さらに首にタンバリンをかけていた。そりゃ、仲良くしたくないよね。
あたしは気持ちを静めてセッティングを始めた。
……というのは嘘で、やっぱり結構ムカついた。
ヴァイオレットはくすくす感じ悪く笑いながらこっちを見ている。もしかしたらそうじゃないかもしれないけど、さっきのドラムのせいで、今や全員が敵に見える。
それからジャクソンブレイクはみんなデレデレしていた。耳打ちしたりして、『おまえどっち?俺ギターの子』『いや俺はベースだね』とか言ってそうなのが手に取るようにわかる。
そして、また彼がこっちを見ているのに気付いた。
あたしの憧れのドラムス、アマチュアランキング第一位に輝いている、あの彼だ。
|